服屋に入るために服を買うという矛盾
私のインターン先は原宿である。
さらに詳しく言うと、竹下通りの辺りである。
原宿はファッションの聖地と誰が言い始めたのかは知らないが、
確かに死ぬほど服屋が多い。
竹下通りを少し抜けると、
New Balance やムラサキスポーツにぶち当たる。
そこを右に進んで行くと東急プラザがあって、
おそらく原宿界隈で最も大きな交差点に出る。
竹下通りをY軸とすると、
New Balanceのある通りは垂直に交わるX軸となるのだが、
その通りには洒落乙な服屋がめちゃめちゃある。
だから私はその通りを、「洒落乙通り」と呼んでいる。
私は極めて普通な服を着る大学生である。
普段はGUやグローバルワークなどで3000円するかしないかの、
俗に言う無難な服を着ている。
可もなければ、不可もない。
服について言及されることはまずない。
でも、そんな私も、
いやそんな私だからこそ、
たまに何故かオシャレになりたいと切に思う。
嗚呼、坂口健太郎みたいなゆるゆるした服を着てみたいなと。
MEN's N○N- N○みたいな服を着てみたいなと。
小生意気なことを思っちゃうんですね。
そんな小生意気な私のニーズと、
洒落乙通りの提供してくれる服は、
まさに阿吽の呼吸なのである。
何が阿吽の呼吸だと、我ながら突っ込みたいところだが
そこは特に問題ではないのだ。
取り敢えず、服を買うために
洒落乙通りの服屋に入ろうとするのだが、
私は驚愕の事実に直面するのである。
こんな格好でオサレな服屋に入れない...
私はとても冷めた弟を持っている。
辛辣なほどに冷静な、酷な意見を述べる弟を。
そいつに言わせてみれば、
お前なんか誰も見てねえから気にスンナ☆
とのことで、どうでもいいじゃねえかと。
服屋に服を買いに行ってんだから、
今着てる服なんかどうでもいいじゃねえかと。
オシャレな服を着てるやつは服を買う必要がないんだから、
オシャレじゃない服で服屋に入ってええやろ、と。
確かに正論だ。
弟よ、確かにお前の言うことは正論だ。
さすが俺の数倍良い高校に進学し、
堅実な人生を歩んでるだけのことはあるじゃないか。
だが、弟よ。
私は冷ややかな目で見られるのが嫌いなんだ。
店内から笑い声が聞こえてきたら、
(え、俺もしかして笑われてる...?)
なんてことを思いながら服を買うことは私にはできない。
そうして、私は今日。
原宿なオシャレな通りで服を買うために、
アーバンリサーチへと服を買いに行った。
たったか3000円の服を1枚買った。
それで、自信に満ちて服を買えるのか分からないが、
服が買えたのならそれはそれでいいんじゃないんだろうか。
おそらくその服を着て、彼女のご両親に挨拶をするんだけれども、
うまく行くといいな。